
こんにちは。
ミャンマー在住の小林です。
今回は、2025年12月28日から始まるミャンマー総選挙を中心に、年末にかけて現地で起きている動きをまとめてみます。
ニュースを追っているだけでは見えにくい「実務的な影響」も交えながら整理します。
■ 総選挙の日程と実施形態乾期の訪れ
今回の総選挙は、一斉実施ではなく複数フェーズ方式です。
- 第1回:12月28日(102地区)
- 第2回:1月11日(100地区)
- 第3回:1月25日(65地区)
ただし、
➤ 軍が掌握していない地域や治安悪化地域では投票自体が行われません。
戒厳令・非常事態宣言が継続している63地区の投票日は、いまだ未定です。
選挙運動期間は
10月28日 18:00 ~ 12月26日 正午 の約60日間。
形式上は集会・演説が可能とされていますが、実際には厳しい監視下にあります。
■ 参加政党と制度設計の現実
今回の選挙制度は、
- 2008年憲法に基づく 軍の議席25%自動確保
- 比例代表制の導入
などにより、軍系政党(USDP)に有利な構造になっています。
登録政党は約50〜60。
USDP、National Unity Party、People’s Pioneer Party などが主要プレイヤーとされます。
一部政党は「この枠組みでも自由で公正な選挙は可能」と表明しており、軍政の民間パートナー的な立ち位置です。
■ 反対勢力と国際社会の評価は厳しい
一方で、
- NLDは登録抹消
- 民主派の多くは参加不可
事実上、実質的な野党不在の選挙です。
2021年以降、約3万人規模の政治犯拘束、候補者・活動家の逮捕が続いており、恐怖と萎縮の中での選挙と見られています。
NUGや民族武装組織は選挙を全面否定。
投票協力者を「反逆者」とみなす声明も出ており、実際に投票関連施設への攻撃も報告されています。 国連、Human Rights Watch などは「軍政に見かけ上の正当性を与えるだけ」として、各国に不承認を求めています。
■ 現地メディアの温度差
ミャンマー国内報道も、立場によって色が分かれます。
- Eleven Media
→ 日程、政党数、候補者数など公式情報を淡々と報道 - 国営系メディア(GNLM)
→「平和・安定・発展のための選挙」を強調
→ 在外投票の実施をアピール - 独立系(The Irrawaddy、DVB、Myanmar Now)
→ 多数地域での投票除外
→ USDP候補の突出
→ 「事実上の軍政信任投票」と批判
■ ビジネス目線で見るとどうか
正直なところ、
選挙=安定化 という期待は、現時点では持ちにくいです。
- 西側諸国:制裁・外交的距離を維持
- 中国・ロシア:軍政との関係継続
➤ 国際社会は引き続き分断状態。 企業実務としては、「政治イベント」よりも治安・規制・通信・送金・人の移動を個別に注視すべき局面です。
■ 年末〜年始に向けた実務チェックリスト
移動
- 投票日前後は検問・突発封鎖あり
→ 出張・面接はオンライン優先+代替日確保
人員管理
- 出社率低下・沈黙ストの可能性
→ 在宅・時差勤務を柔軟運用
通信
- 回線品質低下・遮断リスク
→ 重要会議は録画前提、ISP二重化
拠点運用
- ヤンゴンでも局地的混乱の可能性
→ 最低限の現金・電源・備蓄(やり過ぎない)
■ その他、最近のトピック
① 危険レベル引き上げ
外務省が一部地域の渡航危険情報をレベル2→3へ。

② 外国人入国審査の厳格化
選挙報道を目的とする外国人は
➤ 公式認定カード必須
➤ 手続き未完了の場合、入国後も取材不可。
③ インターネット障害
11月以降、ヤンゴン全域で速度低下。
海底ケーブル障害とされていますが、「選挙を意識した制限では?」という噂も根強いです。
④ 為替:ドル安・MMK高
MMKが3000チャット台へ。
年初4500台からの急変。
選挙後の為替コントロールの動きには要注意です。
(図はXポストから借用)

■ おわりに
現地で生活していると、「選挙」という言葉の響きと、実際の空気感には大きなギャップがあります。
引き続き、過度に悲観せず、過度に期待せず実務目線で淡々と状況を見ていくのが現実的だと感じています。 また動きがあれば、続報を書きます。