― 燃料危機と停電再拡大、そして現地で感じる変化 ―
私はこれまで約10年にわたりミャンマーの通信・IT分野に関わり、現在もヤンゴンを拠点に活動しています。本ブログでは、現地で実際に見聞きした情報や体感をもとに、「ミャンマーの今」をお伝えしてきました。
GICでの業務委託終了に伴い、本ブログも今回が最終回となります。最後に、2026年3月時点で現地で起きている重要な変化について、現地報道や海外メディアの情報と、自身の体感を交えて整理します。今回は最終回ということもあり長文になりましたがご容赦ください。
0.はじめに:中東情勢とグローバルな燃料危機
2026年2月以降、米国・イスラエルとイランの軍事衝突が激化したことで、エネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡の通航が大幅に制限されました。これにより国際原油価格は一時1バレル90ドル近くに急騰し、東南アジア全域でエネルギー危機が顕在化しています。
ミャンマーはガソリン・ディーゼル燃料のほぼ全量を輸入に依存しており、その影響は特に深刻です。タイ、ラオス、ベトナムなど近隣諸国でも同様の混乱が起きていますが、すでに内戦・経済危機を抱えるミャンマーでは、外貨不足や流通制約といった複合的な要因が重なり、他国をはるかに上回る打撃を受けています。
1.燃料不足による社会への影響
2026年3月、ヤンゴンをはじめとするミャンマー主要都市では燃料不足が急速に深刻化し、生活やビジネスに直接的な影響が広がっています。

(燃油不足が深刻な社会問題となっているヤンゴンのガソリンスタンド)
■ 燃料価格の急騰
3月20日、軍政の「燃料輸入・備蓄・配給監督委員会」は主要燃料の価格を一斉に引き上げました。92オクタンガソリンが1リットル約800チャット、95オクタンが約900チャット、ディーゼルは約1,200チャットもの大幅な値上げとなりました。ネピードーでは、ディーゼルが1日で3,640チャットから4,900チャットへと跳ね上がりました。
■ 自家用車の利用制限(偶数・奇数日)
3月7日より、自家用車はナンバープレートの偶数・奇数によって利用可能日が制限されました(電気自動車・バス・タクシーは除外)。配送車両や学童送迎車両なども後に免除対象となりましたが、個人の移動と企業活動には依然として制約が続いています。
■ 給油制限とQRコード管理の導入
3月12日からは車両のバーコードスキャンとQRコード発行による給油管理が開始されました。排気量に応じて週1〜2回の給油制限が設けられており、乗用車は1回あたり最大50,000チャット分が上限とされています。ただし、手続きの複雑さやシステムの不具合による混雑が悪化しており、「6時間以上並んで売り切れだった」という声もヤンゴン市内で多く聞かれます。

(自宅近くのガソリンスタンドからの給油待ちの長い車列はどこまでも続く)
■ Grabタクシーの利用環境の悪化(現地実感)
現地で特に強く感じるのは、配車サービスへの影響です。日中でもGrabの待ち時間は明らかに長くなっており、特に夜20時以降はほとんど捕まらない状況が頻繁に発生しています。これはドライバー側の燃料確保が難しくなっていることが背景と考えられ、「移動できない」という新たな制約が日常化しつつあります。

(日中でも10~15分待ちのことが多くなり、夜間のGrab移動は厳しくなっている)
■ 長距離バス運賃の急騰
航空・自家用車の制約を受け、長距離バスへの需要が急増した一方で、ディーゼル価格高騰によりバス運賃も急騰しています。ヤンゴン〜ネピードー間は21,000チャットから45,000チャットへ、ヤンゴン〜マンダレー間は23,000チャットから50,000チャットへと倍近くに値上がりしており、帰省を断念せざるを得ない市民も出てくると思われます。
■ 在宅勤務の導入(政府主導)
政府は3月25日から政府職員は毎週水曜日を在宅勤務日とする措置を開始しました。目的は明確で、燃料消費の抑制です。民間企業にも同様の対応が求められていますが、実際の導入状況は企業規模や業種によりばらつきがあり、浸透には至っていない印象です。
■ 地方・紛争地域への深刻な影響
都市部以上に深刻なのが地方や紛争地域での燃料不足です。カチン州・ザガイン北部・チン州・シャン州北部などでは、クロスボーダー輸入制限の影響もあり、1リットルあたり10,000〜15,000チャットという価格が報告されています。これはタイの2〜3倍に相当し、農産物の輸送、地域間取引、医療へのアクセスが著しく困難になっています。
2.航空・物流への影響
燃料不足は航空分野に甚大な影響を及ぼしました。
■ 国内線の大規模欠航と再開
3月20日、MAI(ミャンマー航空)・MNA(ミャンマー国内航空)・ミンガラー航空・エア・タンルィン・マン・ヤダナーポン航空の主要5社が一斉に国内線の販売を停止・大規模欠航に踏み切りました。ヤンゴン〜ヘーホー線やマンダレー〜タチレク線など多くの路線が全便運休となり、タイにいる出稼ぎ労働者がティンジャン(水かけ祭り)の帰省フライトをキャンセルされるケースも相次ぎました。
これに対し、軍政は3月25日から国内線の全面再開を発表。ミン・アウン・フライン国軍総司令官が「道路アクセスが困難な地域への運航を優先せよ」と命じたことを受け、3月25〜26日にかけて各社が順次チケット販売を再開しました。MAIは3月26日に手荷物制限も元の水準(エコノミー30kg・ビジネス40kg)に戻しています。
■ 国際線の制約(手荷物制限など)国際線は運航自体は継続されていますが、一時的にヤンゴン空港での給油制約の影響を受け、手荷物重量制限が1人あたり10kgに強化されました。チェンマイ〜ヤンゴン便の片道運賃は14,000バーツ前後(従来の往復運賃に相当)まで急騰し、超過荷物は1kgあたり500バーツという高額設定となりました。こうした制約は3月下旬に一部緩和されており、「完全停止ではなく制限付き運用」という形で維持されています。

(預入荷物の重量制限は海外渡航者にとっての影響が大きい)
3.停電の再拡大
燃料問題と並行して、電力供給にも変化が見られます。
■ 計画停電の再開(少なくとも6月まで)
2026年3月18日、軍政の電力省はヤンゴンを含むミャンマー全土で輪番停電を3月18日から実施し、少なくとも6月まで継続すると正式発表しました。現状の電力需要は約4,664MWとされていますが、実際の供給能力は約3,600MW程度にとどまっており、約1,000MW以上の供給不足が生じています。
■ 停電の背景
- 乾季による水力発電の出力低下(ミャンマーの発電の約半分が水力に依存)
- 夏季の気温上昇による電力需要の急増
- 中東情勢によるLNG価格高騰・調達困難
- 燃料不足により発電用LNGも圧迫されるという悪循環
■ 現地体感としての特徴
公式には「4時間停電→通電」のサイクルとされていますが、実際には地域によってばらつきがあります。予定より短く終わるケースも見られる一方で、夜間に電気が来ないことも珍しくありません。「停電前と比べると、今年は燃料不足も重なるためジェネレーターへの燃料確保も難しくなっており、対応が例年以上に厳しい」という声が聞かれます

(一番影響が大きい17時以降の夜間停電も再開)
4.ティンジャン(水かけ祭り)への影響
4月はミャンマーの最大の年中行事・ティンジャン(水かけ祭り)の時期にあたります。帰省や移動の需要が集中するこの時期に燃料危機が重なったことで、例年とは大きく異なる状況が生じています。
軍政は3月25日の「燃料供給・効率的消費に関する会議」で、ティンジャン期間中の燃料消費抑制策として次のような方針を示しました。
- 主要都市・各郡区で「ウォーキング・ティンジャン(徒歩圏内での祭り)」を推進し、過剰な燃料消費を防ぐ
- 鉄道・路線バスなどの公共交通機関への燃料を最優先で確保する
- 鉄道の増車両・増便による移動手段の補完
こうした事情もあり、今年のティンジャンは規模が縮小される見込みです。燃料不足の中、故郷に帰れない人々も多く、例年とは異なる静かな正月になる可能性があります。
5.現地で感じる「変化の質」
今回の一連の動きを現地で見ていると、単なる一時的な混乱ではなく、社会の運営そのものが調整フェーズに入っている印象を受けます。
- 移動の制約(自家用車の隔日制限・Grabタクシーの減少・長距離バス運賃急騰)
- エネルギー制約(燃料・電力の双方が同時に逼迫)
- 業務形態の変化(政府主導の在宅勤務)
- 航空ネットワークの一時的な崩壊と再建
一方で、国内線運航の再開や手荷物制限の一部緩和、EVへの需要シフトなど、状況に応じた調整や部分的な正常化も同時に進んでいます。EVは今回の利用規制の適用外とされており、中国メーカーを中心にヤンゴンでの普及が加速しています。
また、鉄道利用者が急増するなど、燃料危機がかえって従来軽視されてきた公共交通インフラへの注目を高める副次的な変化も起きています。
つまり現在は、「制約の強化」と「現実的な調整」が同時に進んでいる過渡期と捉えるのが適切です。ただし、こうした問題の根底には、クーデター以降の経済失政・外資撤退・内戦継続という構造的課題があり、燃料危機が落ち着いても課題そのものが解消されるわけではありません。
6.最後に
本ブログではこれまで、ミャンマーの「現場で起きていること」を、できるだけ一次情報に近い形でお伝えしてきました。
今回でGICのブログとしての発信は一区切りとなりますが、ミャンマーの状況は今後も大きく変化していくことが想定されます。
今後は、私自身のFacebookやLinkedInなどの媒体を通じて、引き続き現地のリアルな情報発信を継続していきます。
これまでお読みいただき、ありがとうございました。

(ダウンタウンは燃油不足でも、従前どおり慢性的な交通渋滞が発生している)
主な参照情報源
Mizzima(英語版)、DVB(民主の声ビルマ)、BNI(ビルマニュースインターナショナル)、The Diplomat、Reuters、Shan Herald Agency for News、Global New Light of Myanmar(軍政系)、MoeMaKa、Mekong Eye、朝日新聞、日本経済新聞、共同通信、現地体感情報